生還

あれから何度もこまめに個人ブログを検索して、いくつもこの日の感想を読んだ。
いつも静かに鳥肌が立つのは、幕開けの描写。




照明が暗くなって、Rebornがはじまったとき
誰もが悲鳴のような声にならない声をあげていた。
私も、それを抑えるように手元に持っていった両手を、いつの間にかぐっと固く握りしめて
祈るようなポーズでステージを見つめていた。


ああ、あの声が、あの曲が、鳴ってる。歌ってる。そこにいる。


薄い幕の向こうには、五十嵐隆と、アシンメトリーな髪型の暴れドラマー、寡黙なベーシスト。
「まさか」と「もしかして」を、何十回も繰り返して。


静かに曲が終わって、Sonicのイントロが鳴った。また喉の奥で悲鳴。
幕が開けた時の気持ちはどう表したらいいだろう。
みんながきっと泣いていた中、私は笑みが止まらなかった。


良く知った曲のイントロが鳴らされるたびに
はあ、と溜め息がこぼれて、膝を抱えて座り込んでしまいたくなる衝動に駆られた。
絶対に失いたくないものを大事にしまい込むように。


ただ、「赤いカラス」が始まった時は、ヒュッと心が凍り付いたようだった。
始まってからこの時まで、今日はSyrup16gのライブなんだと思っていた。
そうじゃなかった。そうじゃなかったんだ。そうか。


薄靄が心に漂ったまま、ライブは進んでいく。


「明日を落としても」の弾き語りはずっと聴いていたかったし、
「月になって」の時、何度目の溜め息を吐いただろう。大好きな曲。
「coup d'Etat」の全身が痺れるような感覚が心地良くて懐かしくて。


アンコール、「パープルムカデ」と「リアル」を演奏したのは、
五十嵐隆とサポートメンバーじゃなくて、紛れも無く「Syrup16gというバンド」だった。
こんなにも私の好きなバンドは格好良いんだ!って、見せびらかしたかった。


どうにか終わって欲しくない。もっともっと聴いていたい。
そんな思いを、2度目のアンコールを求める皆の手拍子の音から感じた。


ぽつりぽつりと語られる言葉のあと、「翌日」をひとり弾き語りで。
"君の傷跡になりたかった”というフレーズが耳に届いた瞬間、
悲しくていたたまれなくて、たまらなくなった。


暗いステージを照らすピンスポットの下で歌う五十嵐を観ていたら、
いつの間にか大樹ちゃんがドラムのところにいて、
マキリンもベースのセッティングをしていて。
ああ、よかった。五十嵐はひとりじゃないんだ。と、なんだか妙にほっとしたのを覚えている。


翌日という希望のうたを聴きながら、
私たちの、願ってもなかった希望が具現化されたような今日のステージの意味を考えていた。
そこにはやっぱり漠然とした不安と疑問しかなかったけれど、
とにかく「今、ここにある」という事実だけで充分だと思った。


ライブが終わって、隣にいた同行者と、しばらく何を話せば良いのかわからなかったな。
とっても話したいことはあるのに、何から話せばいいのか迷って、結局顔を見合わせて笑った。



いつだってこの日のことを思い出せるような気がしている。
あと何年後かには忘れてしまうかもしれないけれど、今は不安を感じない。



追記:「Syrup16gの大樹ちゃん」が、めっためたかっこよくて。しびれた。